楽器演奏はコミュニケーションです!

最近レッスンをしている中で、改めて強く実感していることがあります。サックス(サクソフォン)、フルート、クラリネット等、楽器を演奏する行為は、人間のコミュニケーションの一形態なのですね。複数の人間が音を通じて会話する、合奏に参加する者一人一人が音を生み出し、共同で音楽作品を生み出す。これこそが楽器演奏の本質です!

技術が足りないからコミュニケートできない?

楽器演奏

このような音楽の基本を、なぜ折に触れて思い出すことになるのか?その答えは実にシンプル。これを心から理解している人が少ないせいで、繰り返し指摘することになるためです。

 

私、鈴木学はレッスン中にしばしば「誰かに聞いてもらうつもりで演奏して」、「自分の音色を聞き手に伝えよう」と生徒さんに声をかけます。しかし残念ながらほとんどの人は「今の自分の力量では、それは難しいのでは?」と信じ込んでいます。「もっと練習を重ねた後、正しい奏法を身に着けて、正確な演奏ができなければ、相手に音は伝わらない」と考えてしまうのです。

 

しかし、それは全くの誤解です。むしろ、相手に音、音楽を伝えたいと願いつつ練習、演奏するからこそ技術がついてくるのです。これはスポーツその他、他のジャンルでも同一だと思うのですが、技術をマスターすること自体が目的とはなりません。問題はその技術を使って何を実現するのか?・・というよりも、実現したい目的があるからこそ、そのために必要な技術を身に着けようとするのが、自然な流れのはずです。

 

音楽の場合ならば、例えば「サックスの音色(できたら自分なりの音色)で、奇麗なメロディーを奏でられるようになりたい。そして、バンドに参加したり、人前で演奏を披露したい」という目的のために、必要な技術を身につけようということになるでしょう。

伝えあうことで技術が高まる

その際に、技術を完璧にマスターしていなければならないと考えている人が多いのですが、そんなことはありません。これについては言語の習得過程をイメージしてもらえれば理解しやすいかと思います。

 

例えば、幼児が言語をマスターしていく過程の中で、完璧に話せる状態までトレーニングしないと、人とは会話ができないなんてことはありません。もちろん、最初は単語一つのみであったり、たどたどしい言葉であったりするでしょう。それでも両親その他、周囲の人間と言語によるコミュニケーションを体験していくことで、言語力が向上していきます。

 

大人の場合でも、これは大きく変わりません。例えば英会話をマスターしようとする際、手っ取り早いのは、ネイティブ・スピーカーと英語で会話してみることです。完璧に話せるようになるまで一人で勉強を重ねるよりも、ある程度話せるようになったら、とにかく会話してみることが、マスターへの最短距離であることに異論を唱える人はまずいないでしょう。

 

音楽の場合もこれと全く同一です。例え技術的に未熟であろうとも、チャンスを見つけてどんどん合奏に参加していくことで、演奏力が高まっていきます。そして、普段から相手に自分の音を伝える意識を強く持ち練習を重ねることが上達につながるのです

聞く事よりも伝えること!

合奏

日本の音楽教育の現場で強調されやすい「周りの音を聞いて合わせなさい」という指導は、音によるコミュニケーションという点から考えると、実に歪です。合奏というのは皆で音を出す行為です。その際、「周りの音を聞く⇒それに一致させる」という考えを基準にすると、ものすごく受け身な姿勢で楽器から音を発することになってしまいます

 

コミュニケーションという視点から言えば、まずは自分の音をはっきりと相手に伝えることが大切です。そもそも、皆がそのように演奏していれば、必ず周りの音も耳に飛び込んでくるはずです。「聞いて合わせる」という消極的な姿勢で奏でた音楽と、「音を伝えあおう」という積極的な姿勢で奏でられた音楽、どちらが聞き映えが良くなるか言うまでもないでしょう。

 

この際、「正しく正確に伝えなければ・・」なんて気にする必要はありません。ここでも、幼児の例、外国語学習の例を思い出してください。どんなに拙くてもよいのです。一生懸命伝えようとする気持ち、これさえあればコミュニケーションは成立します

 

むしろ、一緒に演奏する立場から言えば、どんなに正確で完璧な演奏でも、家で練習してきたとおり、周りの演奏とは関係なく、独り言のように演奏される方が、よほど嫌です。時折、本当にそのような演奏をする奏者がいますが、心の底から勘弁願いたいです(汗)。

 

バンドのメンバーに伝えるつもりで演奏する事、観客に伝えるつもりで演奏する事、これが楽器演奏の大原則です。皆さん、ぜひ記憶しておいてくださいね!