ジャズアンサンブルを整える方法(音程編①)

ここまでのブログ、『サックス・ジャズ演奏法』のなかで、サックスサクソフォン)を演奏する上での音程の重要性について、たびたびご指摘してきました。そして、『サックスでソロを吹く際の音程①』『サックスでソロを吹く際の音程②』では、ソロでサックスを演奏する際には『旋律的音程』を整えることが重要である事をご説明しました。今回からは、アンサンブルの中での、『和声的音程』を整える方法について、ご説明していきます。

サックスの音程について再確認

さて、『和声的音程』についてお話しする前に、まずはサックスという楽器自体の持つ、音程の特性、それからジャズ・アンサンブルならではの音程に関する考え方について、ここまでご指摘してきた事を、簡単にまとめてみようと思います。

  • サックスは構造上、音程が大変不安定になる為、奏者自身が音程をコントロールする必要がある
  • サックスでよい音程を求める為には、体がリラックスした奏法が必要である
  • ジャズアンサンブルの場合、自分が演奏する音は自分しか演奏しない その為、他の音と揃えるという考え方は通用しない

以上の点を再確認していただいた上でお話を進めていきます。

『和声的音程』は常に変化する

チューニング

ブログ『チューナーの音程は正しいのか?』でご説明したとおり、絶対的な音程というものは存在しません。チューナーで示される音程は、実際の管楽器演奏の中では通用しないのです。常に、奏者自身が、美しい音程を求めてコントロールする必要があります。

 

曲の始めから終わりまで、一種類の和音のみで構成される楽曲は、少なくともジャズの場合、ほとんど存在しません。実際の楽曲の中では、常に和声は変化していきます。これが何を意味するのか?

 

例えば、和声がC(ドミソ)からAm(ラドミ)へと進行していく場合、この2つの和音を比べるとドとミの音が共通しています。それならば、この2音は和音が変化しても全く同じ音程のままでもよいように思えます。しかし、本当に濁りのないピュアな響きの和音を求めるのならば、僅かに音程を変化させる必要があります。Cの時に美しく響くミの音程と、Amの時のミの音程は、厳密には異なるのです。つまりこのミの音は和声が進行していく中、ずっと同じ音程のままだと、和音が濁ってしまうという事になります。

 

私自身、厳密に音響学を勉強したわけではないので、実際の音程関係がどのくらい変化するべきものなのか等、詳しい数値は分っていません。しかし、自分の演奏を分析してみると、『美しい』和音を求める意識で演奏する中、和声に対して、無意識に音程を変化させています。

指導者にチューニングを合わせてもらう???

私、鈴木学は、これまでにかなりの数のジャズバンドを指導をしてきました。その中のいくつかのバンドで、楽曲の合奏前に、全員が集合しバンドリーダーの指示のもと、メンバー一人ひとりの音程、楽器のチューニングをチェックしている例がありました。例えば、ピアノが基準音を出し、それに対して各メンバー順に発音させ、音程が高い低いといって指摘していくというものです。バンドによっては、これに30分以上も時間をかけていた例もあります。

 

しかし、上述したように、和声が変われば音程も変化するべきです。一曲の間中、各音をずっと同じ音程のままで演奏するのはおかしいのです。当然、基準音の音程を合わせたからといって、曲の間ずっとその音程のままで良いなんて事はありません。つまり、上記のように音程を合わせる方法は、実質的に無意味なのです。特に30分も時間をかけるなんて、本当に時間の無駄です。その分の時間を楽曲の合奏時間に変更するべきでしょう。

音程は奏者自身が『創る』もの

合奏、アンサンブル

そもそも、サックスその他管楽器の場合、ある程度の時間ずっと演奏を続けている間に、音程は変化します。管体の金属が暖まると、音程は上がっていくため、合奏中にも音程を調整する必要があるのです。

 

それならば音程を整えるのはどのようにしたら良いのか?このように、和声の性質上、管楽器の特性上、音程が常に変化するものだという前提から考えれば、答えは実にシンプルです。「各奏者各々が常に自発的に音程を調整する習慣を作ること」、もうこれしかありません。先ほどの合奏前のチューニングの例にしたって、事前に各奏者が、チューニングメーターを使って基準音を合わせておけば、それだけで済む事です。誰かに音程を指摘してもらうのではなく、自分で音程を整えるべき、と考えればそれはごくごく自然な事ですよね?

 

合奏中、そして個人練習中にも、各奏者自身が常に『美しい』音程を求める姿勢を持つこと、これこそが、曲中常に変化していく『和声的音程』を整える為の基本です。バンドのメンバーが、この考えを共有していれば、絶対に和音は美しく響きます!

 

この考え方が浸透しているバンドの場合、合奏前のチューニングは僅か数分で完了します。つまりメンバー全員が、自分で音程のコントロールをできるということです。これなら、合奏前に皆でチューニングする事が、『美しい』演奏を生み出す為に大いに有効でしょう。