サックスでソロを吹く際の音程②

前回『サックスでソロを吹く際の音程①』で、サックスサクソフォン)等、単音でメロディーを奏でる楽器が、ソロで演奏する際には、『旋律的音程』を整える必要がある事をご説明しました。今回は更に具体的に、どのように考えて練習に取り組む事で、この『旋律的音程』が整ってくるのか?お話を進めていきたいと思います。

スケール練習の本当の意義

皆さんは、スケール練習というと運指のトレーニングの代表格のように思いがちです。確かにこの練習が運指の向上に役立つ事は間違いないのですが、実は今回の本題、『旋律的音程(イントネーション)』を整える為の練習としてコレほど優れたものはありません

 

スケール(音階)も、メロディーの一種だと考えてください。そう考えるとスケールは、西洋音楽の旋律の中で最も規則的に整った旋律だという事になります。最も規則的であるという事は、ドの次の音、レの音程、その次のミの音程、というように音階を奏でていく時に、今の音に対して次の音のイントネーションがイメージしやすいという事になります。『旋律的音程』は前後の音程の比較から決まりますから、スケールのように次の音の音程が予測しやすい音列であるほど、音程(イントネーション)を整えやすくなります。

 

ドレミファソラシドと順に進むスケールだけでなく、ドミレファ・・とか、ドレミド|レミファレ|・・のように様々なパターンで進行していくスケールを練習しましょう。この時、テンポをより早くすること、正確にする事にこだわらないことが大切です。今の目的は『旋律的音程』を整える事ですから、とにかく自分の楽器の音程(イントネーション)にとことん集中して、しっかり聞き取る事、そして、より美しくスケールを演奏する事を目指して下さい。このような意識で練習していく事で確実に『旋律的音程』を整える感覚が身につきます。

絶対音感は必要ない

音程(ピッチ)を整える

絶対音感という言葉をご存知でしょうか?大雑把に言えば「音高を音名(ドレミ・・)で言い当てる能力」の事をいうのですが、一般に「自分には音感が無いから、楽器は無理なのでは・・」と口にする方は、この絶対音感の事を想定しているようです。しかし実は、楽器を演奏する上で、この絶対音感は特に必要のないものです。というか、『旋律的音程』を整えようとする際には、絶対音感を持っている事が有害になってしまう事すらあります

 

絶対音感は、一つの音に対して、音高を音名で言い当てる能力なので、この能力を持っている人は、旋律の各音の前後のつながりと関係なく、一音一音の音程(ピッチ)を個別にイメージしようとする傾向があります。しかし、管楽器、特にサックスの音程のコントロールは、技術的に大変繊細なものです。ドレミ・・と音高が変わっていけば、奏者はそれにつれて無意識に微細な調整をしているのです。この無意識の調整が、一音単位で旋律を追ってしまうと、間に合わない、体が追いつかない為、常に少しづつ音程がずれた演奏になってしまう事があります。

 

『旋律的音程』を整える際には、このような絶対音感のせいで生じる悪い例とは、違った発想をすることになります。とにかく今自分が奏でている音程に対して次の音程を決める、更に次の音も・・、というように相対的に音程(イントネーション)を整えていくのが『旋律的音程』です。ですから、上記のように、スケール練習の様々なパターン、今の音の音程と次の音の音程関係のバリエイションを数多く体験する事が重要となるのです。

 

ドの音を一度聞いた後であれば、他の音レ、ミ、・・の音高、音名をイメージすることができる、つまり「ある音の高さを基準に、他の音の高さを判別する能力」のことを相対音感といいます。この相対音感こそが、サックス等の楽器演奏に求められるものですが、これはトレーニングしだいで誰でも身につけることが可能です。

旋律的音程を整える為に!

私、鈴木学は、鈴木サキソフォンスクールで、これまで本当に数多くの生徒さんとのお付き合いをさせていただいた結果、体験的に、音程を整えるのが苦手な人のパターンがある事に気付きました。

  • ①今の音を発音した瞬間、もう次の音に意識が移ってしまう人
  • ②一音一音の正確さにこだわるあまり、旋律内の音のつながりに意識が向かない人
  • ③ピアノで絶対音感を身につけた結果、サックスのような管楽器の音色も、ピアノのような減衰音でイメージしてしまう人

この3つの例に共通しているのは、サックスの音を、各音の発音の瞬間にしか聞いていないという事です。ということは裏を返せば、演奏中の各音の音程を最後までしっかり聞くことで、次の音の音程が判る、つまり『旋律的音程』を整えることができるという事になります。私を含め絶対音感を持っていない人は、今の音の音程、もしくはそこまで演奏した各音の音程の記憶が無ければ、次の音の音程は判断できません。今の音の音程を無視して、次の音の音程を取る事は不可能なのです。だからこそ、今自分が演奏している音の音程を最後までしっかり聞き取ることが、『旋律的音程』を整えるためには重要なのです。

 

何かメロディーを演奏する練習をする際、テンポ、リズムは無視して、各音を長めに吹き伸ばし、メロディーの音を順に進んでいきます。一息で3~4音進行するくらいのペースがよいでしょう。今演奏している音の音程をしっかり聞くことを心がけていると、吹き伸ばしている間に音程が定まってくる感覚があるはずです。そうしたらすぐに次の音に進む、このようにして、ゆったりゆったりと練習してみてください。その後、インテンポにして演奏すると、驚くほど音程(イントネーション)の感覚が鋭敏になるはずです。そして『旋律的音程』が整った状態になるはずです。

 

スケール練習、それからテンポを無くしてメロディーを吹く練習、共にしっかりと耳を使うことが大切です。誰にでも、音程を聞き取る能力はあります。だって、人の演奏を聞くときには、あの人何となくイントネーションがあやしいなと思うでしょう? 皆さん、自分の耳を信頼し、美しい音程(イントネーション)目指して練習に取り組んでください!