リズムセクションとの関係(後編)

【今回のブログは、前回のブログ「リズムセクションとの関係について(前編)」の後編となりますので、前回のブログをご覧いただいている前提でお話を進めさせていただきます。】

本来のジャズから考える

ジャズの発祥の時代、「 デキシーランド・ジャズ」と一般に呼ばれる演奏スタイルでは、バンドの各メンバーが同時に即興演奏をする「集団即興演奏」が行われていました。主旋律を演奏する奏者以外は皆、その主旋律を飾ったり、別の副旋律を即興で演奏する、つまり複数の旋律が絡み合うように演奏していました。 その当時の音源を一つご紹介します「 Sobbin' Blues - King Oliver's Creole Jazz Band 」です。

途中から、各メンバーのソロプレイも少々披露されていますが、冒頭からのアンサンブル部分は、トランペットクラリネット、等の複数の楽器による集団即興演奏でアンサンブルしているのが聞き取れます。

バンドの各メンバーのプレイを聞きたい、聞かせたい!

まずはプレイヤー自身の演奏という観点から、このような集団即興演奏をしている最中に、自分の演奏している音が聞き取れないと、そもそも即興演奏ができません。これについては後々このブログの中でも詳細にご説明する事になると思うのですが、アドリブプレイの最中に、その瞬間に奏でている音が自分の耳に入っていないと、次の音を思い浮かべる事は出来なくなります。そういった理由から、即興している奏者はいつも自分の音をはっきりと聞き取れている状態である必要があります。

 

次に即興している各プレイヤーの気持ちを考えてみると、まず十中八九「自分の演奏を観客に聞かせたい」と願っているはずです。もちろん、先程ご紹介した音源の中での集団即興演奏の時、主旋律以外を演奏する奏者は、主旋律を引き立てるという意識をある程度は持ちつつ(音源を聞く限りでは若干怪しいですが・・・)即興演奏をしています。

 

しかし、だからといって自分の音が聞こえないようにと思って即興演奏をする奏者はいません。即興をする限りは、「自分の音をしっかり聞きたい、そして人にも聞かせたい」と考えて演奏するのが当然なのです。なぜならば、音楽、特に即興で産み出された音楽というものは全く形になって残らないものですから…。

タイミングを合わせる=音をかき消しあう

クラリネット

ここで、リズムセクションとの関係について、話を戻しましょう。繰り返しになりますが、ジャズのアンサンブルの時、リズムセクションは即興で演奏しています。即興なのですから、ピアノ、ギター、ベース、ドラムの各メンバーは、「自分の音をしっかり聞きたい、人にも聞かせたい」と願って演奏しているはずです。

 

この時、サックス、トランペット、トロンボーンの管楽器奏者がリズムセクションの音に対して、ピッタリとタイミングを合わせて演奏したら、どのような事が起きるのでしょうか?間違いなくお互いの楽器の音を消しあってしまいます!

 

ブログ「ジャズ・アンサンブルとは!」でお伝えしたとおり、お互いの音を合わせるというのは、「音を溶け合わせる」ためのアンサンブルの方法です。しかし、ジャズの場合は溶け合ってはいけないのです。各奏者の音が一つ一つ「くっきりハッキリと聞こえるように演奏」したいのです。「リズムセクションの楽器と管楽器の音のタイミングをピッタリにしたらジャズの演奏ではなくなる」 ここまで断言してしまっても問題無いと私、鈴木学は考えています。

カウント・ベイシーの例

ここまで言い切ったからには、その証拠をお聞かせしなければなりません(笑)。ジャズビッグバンドの王様といわれる カウントベイシー楽団。長年にわたり、そのリズムセクションを支え続けた、リズムギタリスト「フレディー・グリーン」をご紹介します。

 

フレディーはギターアンプを使わない生音で、ビッグバンドの中でリズムを刻み続けます。当然そのギターの音量はそれ程大音量にはなりませんが、それでもバンドのアンサンブルの中でそのギターの音がハッキリ聞こえてきます

 

これからご紹介する動画では、アンコールの為いったんステージサイドに下がっていたフレディーが、 曲の途中から演奏に加わります。ある程度の音量で聞いていただければ、途中からリズムギターが加わっている事がハッキリと聞き取れるはずです。 それではお聴きください、「 Count Basie(カウント・ベイシー楽団)April in Paris 」です。

いかがでしょう?リズムギターが格好良く聞こえてきませんか?しかも、管楽器の合奏とは違うタイミングで聞こえてくるのがお分かりいただけるのではないでしょうか?もしも、管楽器がギターとタイミングをピッタリ合わせてしまっていたら、生音のギターが格好良く聞こえてくることはあり得ません

 

(この動画のような録音メディアの場合、マイクの工夫などによって若干ギターの音量が強調されている事はありえます。しかし、実際にフレディーが加わったベイシーバンドを生で聞いた人の話を伺うと、やはり生音でもしっかり客席に聞こえていた、ということで間違いないようです。)

ならば、どのようにリズムを取ればいいのか?

現在ジャズ演奏に取り組んでいる皆さんは、きっとこのように思うのではないでしょうか?実はここまで執筆してきたブログ「サックス・ジャズ演奏法」の中にその答えはあります。「タイミング」を合わせるのがダメでも、「ペース」を合わせればよいのです(ブログ「タイミングとペースの違いについて」をご覧下さい)。

 

ここで「そんな難しそうな事できっこない!」という皆さんの声が聞こえてきそうです(笑)。しかし実際はタイミングを合わせることより、ペースを合わせる事の方がずっと容易です。例えば数人で道を歩いている時、横一列に並んでマーチングのように足並みを揃えて歩くよりも、何となく一緒に歩いていく方がずっと楽だと思いませんか?今のお話はそういうことなのです。

 

ペースを合わせるアンサンブルを目指す時、バンドのメンバー各々がブログ「メトロノームの使い方」「テンポ・トレーニングの方法」でご紹介したような考え方、練習方法を取り入れていていただくと良いでしょう。そして、各メンバーが各自の音にしっかり集中して、自分のパートのメロディーを自分なりに表現してください。そのような考え方でバンドの練習に取り組んでいただければ、まず間違いなく数ヵ月後にはバンドのサウンドは見違えるように活き活きとしたものに変わります。そして、各メンバーが心から演奏を楽しめるようになることでしょう。

 

もしも、お試しいただいた結果、改善が見られないということがあれば、是非鈴木サキソフォンスクールまでお問い合わせください。基本的に東海3県の中であれば、出張指導につきましても承ります。 皆さん、サックス演奏を、バンド演奏を楽しみましょう!

 

【今回のまとめ】管楽器奏者はアンサンブル時に・・・

  • ドラム等リズムセクションにリズムを合わせると考えるのは止めましょう!
  • 各奏者がリズムについてもしっかりと表現しましょう!
  • タイミングではなくペースを合わせていきましょう!