真のインプロバイザー、マーシュ

孤高のクールジャズテナーウォーン・マーシュの未発表映像が、Youtubeに上がっています。録画日時からすると、亡くなる2カ月ほど前の姿のようです。心筋梗塞で突然亡くなったと記憶していますが、確かにこの映像で見る限り、何ら身体的、音楽的衰えは感じられません。


ここ日本では(ひょっとしたら本国アメリカでも?)、ジャズテナーサックスサクソフォン)プレイヤーとして、マーシュの知名度は決して高くありません。むしろ、ほとんど忘れ去られた存在かと思います。


しかし、ジャズテナーサックスの世界のほとんどの奏者が、コルトレーン系、ロリンズ系、スタンゲッツ系、といったようにメインストリームのスタイルに分類できてしまう中、唯我独尊、孤高の存在として、唯一無二のアドリブスタイルを創り上げ、説得力のある演奏を残したマーシュの存在は、もっと高く評価されるべきだと、私、鈴木学は考えています。

真に独創的で即興的な奏者、マーシュ

間違いなくジャズは「個性の音楽」です。とは言えども、本当に完全に独創的、オリジナルなプレイスタイル、表現を持った奏者は、実はごくわずかです。そして映像をご覧いただければ、マーシュは、その「ごくわずか」の一人であることがご理解いただけると思います。

さらに言えば、ジャズは「即興の音楽」なのですが、実際は完全にその瞬間に即興的にフレージングしている奏者は、「ごくわずか」です。本当のところ、その奏者ならではの歌いまわし、フレーズとして、過去に身に着けた旋律の断片を、記憶のストックから呼び出して演奏している例が多いのです。そんな中マーシュは、「ごくわずか」の方の即興をしていました。

ジャズアドリブについて更に・・

ジャズアドリブの方法、スタイルについて、人前でのスピーチの例えで簡単に説明すると、

  1. シナリオ、レジュメを用意し、それに従ってスピーチ
    ⇒あらかじめソロの流れ、フレージングを「ある程度具体的に」決めておく
  2. 話す内容は特に決めていないが、普段からストックしているネタを組み合わせてスピーチ
    ⇒ストックフレーズを思い出しつつ即興演奏する
  3. 全く何の用意もしないフリースピーチ
    ⇒事前準備無しで、演奏の瞬間の感覚にしたがった即興演奏をする

(1、2の場合でも、一言一句決めてあるわけではないので、実際には即興で変化が生じます)

ジャズの歴史的には、もともと1のスタイルが多かったのが、徐々に2のスタイル中心になってきました。そんな中、マーシュのような3のスタイルは、かなり珍しい存在なのです。

詳しくは私が以前に、ジャズアドリブについて詳細に解説したブログをご覧ください。
ジャズのアドリブ、即興演奏の真実について、クールアルトの巨匠、リー・コニッツさんが、詳細に語りつくした本が出版されています。『リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡』、ジャズ史上唯一無二、プレイヤー自身が即興演奏の真実について語りつくした、貴重な本です。皆さん是非入手してください!

真に即興的なアドリブを目指す!

私自身は、このようなマーシュ、そしてマーシュの同僚でもあったリー・コニッツ(As)のような、その瞬間の感覚に従った、本当の即興演奏を生み出そうとする姿勢に共感してきました。そのため自分自身、ステージ上では常に、一切の準備の無い即興を心掛けています。

そして、ジャズアドリブに挑戦している、教室の生徒さんに対しても同様の姿勢を求めています。と言うと、「そんな難しい事、できるわけがないでしょ!」という声が聞こえてきそうです。いえいえ、決してそんなことはありません。

即興的アドリブは、誰でもできる!

例えば、体験レッスンの時に、もしも「パーカーや、コルトレーンみたいに吹けるようになれますか?」と初心者さんに尋ねられたら、即「残念ながら無理でしょう」とお答えすることになります。実際、プロを目指して訓練を重ねている人の中で、パーカー、コルトレーンレベルまでたどり着ける例は稀でしょう。しかし、「少々たどたどしくても、自分なりの即興をしたい」と目標を変えれば、誰にでも即興演奏は可能となるのです。

だからこそ、瞬間的な即興を目指すことに価値があります。もちろん、マーシュ、そして、コニッツレベルの即興は、凄まじい修練を重ねないと難しいでしょう。しかし、「音数が少なくとも構わない」、「難しい音遣いを用いなくともよい」等々、どんどんハードルを下げていけばよいのです。まずは無理のないレベルのハードルが越えられるようになってから、徐々にハードルを上げていけば良いじゃあないですか!

皆さん、「自分なりのアドリブ」を、是非目指してください!そして、鈴木サキソフォンスクールは、喜んでそんな皆さんのお手伝いをします。ともにジャズ演奏を、サックス演奏を楽しみましょう!