ジャズアドリブの真実①

ジャズアドリブの進歩の過程、①最近練習したとおりのフレーズで演奏、②以前に憶えたフレーズで演奏、③演奏した事は無いけど、聞いた事のあるフレーズで演奏、④演奏した事も聞いたことも無いフレーズで演奏。(フレーズをスケール等と置き換え可。④は最高峰レベルです)

 

これは、つい最近、Twitterに投稿した、私、鈴木学自身のツイートです。その後、この内容について、さらに考えを深めてみた所、皆さんが最も不思議に感じているであろう、ジャズ・アドリブ即興演奏)の真実について、更に深めた解説ができそうになってきました。現在、ジャズアドリブに取り組んでいる方、それから、いつかアドリブに挑戦してみたいとお考えの方にとって、大きなヒントになるかと思います。

ジャズアドリブは会話と似ている

ジャズ・アドリブの習得の過程は、新たな言語を習得する過程と似ています。例えば、冒頭のツイートの①~④をそれぞれ、

  • ①一段落を丸暗記して、そのまま会話で話す
  • ②一文単位の例文を数多く学習しておき、それを思い出しながら組み合わせて話す

ここからは若干ニュアンスが変わり、会話の内容として、

  • ③以前に人から聞いた話の内容を思い出しながら伝える(受け売り)
  • ④会話の最中に、自分自身の言葉として考えた内容を伝える

と置き換える事ができます。 当然①②の状態では会話として大変たどたどしいものになる、というか会話として成立するかどうかすら怪しい状態です。 ③④については、どちらも会話として成立するけれども、話の内容のレベルが違います。③の場合、話し相手への説得力がありませんし、話している本人にも、あまり有意義な会話をしているとは思えないのではないでしょうか?これに対して④だと、話し相手との言葉のやり取りをしている間に、会話として話す内容が深まっていく為、お互いにとって有益な会話となる事でしょう。

ジャズ・アドリブの4つの段階

ジャズアドリブ

ここで、ジャズ・アドリブの場合について、①~④の内容を元に戻して考えてみましょう。 まず、①の場合、演奏している本人は全くアドリブしている気になれないでしょう。もちろん聴衆にとっても同様です。

 

次に②の場合、2段階に分けて考える必要があります。まず、以前に憶えたフレーズを、意図的に思い出している場合、つまり会話なら、次に何を話すか、一文単位で思い出してから話そうとしているような状態です。この場合もやはり、演奏している本人にとって、いかにも取って付けたような演奏をしているようにしか思えないでしょう。聴衆にとってもほぼ同じ印象になるものと思われます。何となくジャズっぽいけど、なんか違うなあ、といった感想になるのではないでしょうか。

 

次の段階は、②であるけど、ほぼ無意識に近い状態で、以前に覚えたフレーズを用いている演奏です。この場合は、かなりアドリブっぽく聞こえます。しかし、いったんある程度まとまった音数のフレーズを演奏し始めると、そのフレーズを演奏し始めた後、比較的すぐにその後のフレーズの音使いの展開が予想できます。これは、演奏している本人にとってはもちろんなのですが、聴衆の中でもジャズを聴く事になれている人は、同様の印象を持つことでしょう。

 

③④に関してはいきなりハイレベルになります。このどちらの場合も、奏者は間違いなくジャズアドリブをしている実感が持てるはずです。もちろん聴衆にとってもそれは同じでしょう。しかし、会話の場合と同様、③の状態だと、どこかほんの僅かによそよそしい演奏になってしまうはずです。もちろんジャズ・アドリブとしては、③の段階でも相当ハイレベルなものです。なにしろ聞き覚えはあっても、演奏した事の無いフレーズを演奏しようというのですから。しかしそれでも、結局はお手本とする奏者のような演奏になるように、といった意識が入りがちになり、本当の即興演奏の凄みを感じさせるには至らないのです。

 

これに対して④は、間違いなく純粋な『即興』演奏です。このレベルまでたどり着けるアドリブ奏者は稀だとは思いますが、このような立場で演奏できる奏者の演奏は、驚くほど強靭な説得力があります。聴衆にとって、とてつもなく緊張感の高い、聴き応え十分の演奏になる事でしょう。もちろん、奏者自身の演奏中、演奏後の充実感も想像を絶するレベルになる事と予想されます(私自身、このレベルの入り口程度までしか、たどりつけていないので・・)。

ジャズ・アドリブは誰にでもできる

私、鈴木学はジャズアドリブに取り組んでいる生徒さんには、③④の状態、特に④を目指すように強くお勧めしています。しかし、ここまで読み勧めていただいた方、特にこれからジャズアドリブに取り組もうという方や、現在学習段階にある方は、きっとこう思うことでしょう。『そんな難しそうなこと、できっこない!』。

 

しかし、今回のお話はあくまで、ジャズアドリブの際の奏者の心理、心がけを分析したものです。決して、結果としてどのような演奏になるべき、という事を述べているのではありません。あくまで、アドリブの際の心持ち、という意味です。

 

例えば、 チャーリー・パーカーソニー・ロリンズジョン・コルトレーンのようなソロが演奏できるようになる事を求めず、どんなにたどたどしくても良いから、自分なりのアドリブをする事を目標とすれば、むしろ④を目指すのが、一番取り組みやすいはずです。①②はかなりの練習時間が必要となりますし、③はかなりの量のジャズを聴きこんでいる必要がありますから・・。